経済成長著しいカンボジア・プノンペンに日本式病院を開院して約6年。日系資本で、日本人・現地の臨床スタッフが共に働き運営する医療機関としては世界初の「サンライズジャパン病院プノンペン(以下、サンライズジャパン病院)」は、患者中心の医療と、医療を軸とした街づくりを目標に挑戦し続けています。その運営母体である北原病院グループ(東京都八王子市)では、海外での活躍を目指す医療者の積極採用と育成、国を跨いだ職員の循環を目指しています。今回は、実際に現地病院で活躍されたサンライズジャパン病院の初代院長の林祥史先生と二代目で現院長の岡和田学先生に、同グループの取り組みや海外での勤務を通じたやりがい、その魅力についてお話を伺いました。
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<お話を伺った先生>
林 祥史(はやし・よしふみ)
北原病院グループ所属 医療法人社団KNI 北原国際病院 院長
岡和田 学(おかわだ・まなぶ)
北原病院グループ所属 サンライズジャパン病院プノンペン 院長
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Q:先生方のご経歴と、北原病院グループに入職された経緯を教えて下さい。
林 :2005年に東京大学を卒業し、亀田メディカルセンターで初期研修を2年・脳神経外科研修を2年受けました。2009年に北原国際病院に入職し、脳神経外科専門医、脳血管内治療専門医、病院総合診療科指導医を取らせていただきました。海外事業では、2009年から調査活動が始まったカンボジアプロジェクトに携わりました。プロジェクトがうまく進展しましたので、2015年にカンボジアへ移住、サンライズジャパン病院の院長として臨床と病院運営業務に従事しました。その後2020年3月に帰国しまして、また北原国際病院で働いています。2022年1月からは同院院長を拝命しました。私自身もともと臨床が好きで、一人前の脳神経外科医として精進していきたいという気持ちと合わせて、「世界を舞台に活躍したい」という思いがありました。北原病院グループに入職することで「指導者として途上国の医療に貢献する」という夢を叶えられる可能性を感じたのが入職の動機です。
岡和田 :私は小児外科医を目指して順天堂大学に入学し、2002年の卒業後は小児外科の手術件数が多かった順天堂大学にそのまま就職しました。その頃は、海外で医療をすることは考えたことがなかったのですが、医師になって7年目のタイミングでアメリカに行った時に、研究や臨床、人材育成、経営に区別なく皆が当たり前のように全ての業務をこなす様子を目の当たりにし、「一つの要素では世界で通用しない」という危機感を感じました。そこからマネジメントにも興味を持つようになり、知識を深めるためにMBAも取得、これまでの経験を活かせる場にアンテナを張る中で、カンボジアで病院を立ち上げて間もない北原病院グループと出会いました。
Q:カンボジアでの勤務を通じて、先生方の価値観にはどのような変化がありましたか?また、世界の医療現場ではどのようなスキルや視点を持った人材が求められると思われますか?
林:臨床面でいうと、日本以上に一つ一つの精度を求められていることを実感しました。カンボジアではほとんどの患者さんが保険に入っておらず自費で医療を受けています。そんな自由診療の中で、患者さんが他の病院ではなく当院の治療を選んでくれていることにプレッシャーとやりがいを感じました。その経験からか、日本に戻ってきてからは今まで以上に一人一人の患者さんに向き合えている気がします。世界の医療現場で働く医師には、「実力」と「コミュニケーション力」が求められると思います。検査や治療について、その意義をきちんと説明し、実際に予後を良くしていかないと外国人医師が現地の患者さんやスタッフから信頼を勝ち取るのは困難です。カンボジアのように医師が少ない国であっても、「医師であれば誰でも歓迎」というわけではありませんので、何か一つの分野でも胸を張って診療できる能力は必要だと思います。
やはり世界では「実力」が求められるのですね。岡和田先生が牽引されている現在でも同様ですか?
岡和田:私は、既に出来上がっているサンライズジャパン病院に参画したこともあり、「実力」以上に「一患者さんと向き合う姿勢」を重要視しています。その点は、林先生の仰る「コミュニケーション力」に通ずると思います。コロナによる渡航制限から、これまでタイやシンガポールに治療に行っていた患者さんが、サンライズジャパン病院に来てくれるようになりました。サンライズジャパン病院は院内の設備が日本と同等なので、医師にとってやることには変わりありませんが、カンボジアでは患者さんが有する医療知識が十分ではありませんので、患者さんと向き合って丁寧な説明をしたりと、治療の前の信頼構築は重要です。価値観の変化については実感がないのですが、マネジメントにおいて「指示をする」よりも「どう誘導するか」を考えないといけない、といった気付きはありました。
Q:何か特別なスキルがなくてはならないというよりは、人間関係を構築することや、患者さんや共に働く仲間に誠実に向き合うことを重視されているのですね。サンライズジャパン病院は海外の病院ということで、そこで働く事の魅力についてもお教えいただけますか?
林:そうですね、「やりがい」に尽きると思います。日本代表という立場で異国の地で診療を行う経験はなかなか得られないです。また、日本の制度に縛られない医療を提供できるというメリットもあります。これは臨床だけの話ではなく、病院運営の場でも新しいサービスやルールを創造できます。外部と提携した研究もでき、日本では得られない経験の場として価値があると感じています。
岡和田:自由に提案して実現させられる場所ですよね。一方で、カンボジアでは日本人職員は外国人ですので、周りを見渡しながら進めないと浮いてしまうこともあると思います。いかに協力しながら創り上げるかという点で、カンボジア人スタッフはアイディアもよく出してくれますし、素直な反応を見せてくれます。日本では見られない組織であることは魅力ですね。
Q:お話を伺っていて、先生方のモチベーションの高さを肌で感じました。この記事を見てくださっている先生方の中には、海外で医療をしてみたいものの不安をお持ちの方もいると思いますが、サポート体制などはあるのでしょうか?
林:サンライズジャパン病院で勤務している日本人医師は、カンボジア人医師への指導者としての役割が求められますので、人数は比較的少ないです。不安や心配もあると思いますが、開院から6年経ち、今は日本からサポートできる体制の構築に着手しています。既に一部の部門では定期的なカンファランスや遠隔での手術指導等を実施しています。一人で全ての責任を背負う必要はないと考えているので、ハードルは高く考えなくても良いと思います。日本に拠点を有する北原病院グループの特性を生かして、支え合いながら若手の先生からベテランの先生までそれぞれの得意なことを活かせる場であると考えています。
岡和田:幸い医療は世界中で通ずるものなので、環境や場所を区分したくなる考えは一旦置いて、とりあえず外に出てみるのは、自分の実力を試したり視野を広げる意味でもとても良い経験になると思います。そして、サンライズジャパン病院は、新たな一歩を踏み出すには出易い場所だと思います。安心して海外に出られる組織を作るためにも、医師がローテーションで赴任できる仕組みを構築したいですね。
Q:医師としての海外での経験という、大変貴重なお話をうかがいました。最後に、先生方はこの経験を経て今後のキャリア形成をどのように考えていらっしゃいますか。
林:貴重な経験をさせていただいたので、その経験を日本での病院運営に活かすとともに、途上国への医療支援も継続していきたいと思っています。
岡和田 先生 :40代は好きなことにチャレンジしようと決めています。5年後、50代を迎えた時、北原病院グループでの新しいプロジェクトを牽引しているのか、他の病院の海外展開プロジェクトなのかはわかりませんが、私と新しい事業や立ち上げを一緒にやりたいと言ってくれる人・組織と働きたいと思っています。それが、今後に続く先生方に示すキャリア形成のモデルケースの一つとなればと考えるところです。経験年数に関わらず、海外での勤務に興味のある先生には是非気軽に声を掛けていただきたいですね。
北原病院グループでは、カンボジアの病院での勤務や、臨床と並行して研究や病院運営、新規プロジェクト立ち上げに加わっていただける医師を募集しています。海外での医療にご興味のある方はお気軽にお問い合わせください。